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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)64号 判決

徳島県美馬郡脇町猪尻字西分一四六番地の二

上告人

金本シゲキ

同県同郡同町

被上告人

脇町税務署長

伊藤為継

右当事者間の所得税額更正決定取消請求事件について、高松高等裁判所が昭和二八年一二月二四日言い渡した判決に対し、上告人から一部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。(上告人の仕入商品に対する利益率の推定に関する原判示は相当と認められ、また上告人の主張する雑損金についても原審が全く考慮していないのでないことは判文上明かである。)

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

(参考)

○昭和二九年(オ)第六四号

上告人 金本シゲキ

被上告人 脇町税務署長

上告人の上告理由

梗概

一、本件訴訟のうち上告審の争点(その一)

(1) 売上高を定めるため仕入商品高に

乙第三号証の一乃至五に基く商品三十五点より差益率を求めて、これを乗ずることに争はない。

右乙第三号証の一乃至五、品目別の仕入売上高、及甲第四号証の七、当事者双方に争なき値引率並に甲第四号証の四、国税協議団の決定した売上原価

右各証拠はその成立に当事者双方に争のない証拠であり、第二審裁判では重要なる証拠として採用せられているが、これが計算では、その差益率は二割三分八厘となるのに、第二審判決では、これが差益率は三割となると判決している。

これは明らかに計数上の誤りであつて、このような誤つた計数のまま第二審の判決を下したことは法令に違背である。

(2) 右証拠に基きこれが差益率を計算すると次のような結果となる。

(イ) 上告人の昭和二十五年売上原価は同年中に仕入れた商品の代価の総額をもつて之に充てることに就ては当事者に争なく、而して第二審裁判では、

甲第四号証の四、売上原価

甲第四号証の五、仕入調書

の仕入金額百二十五万一千九十六円也をもつて正しい売上原価と判断せられ、是に対しては当事者双方に争のないところである。

(ロ) 而して右金額を一〇〇%として是を

(一) 建築用材 三一% 三八九、八三九円

(二) 家庭金物 四二% 五二五、四六一円

(三) 農機具類 一六% 二〇〇、一七五円

(四) 雑品 一一% 一三九、六二一円

合計 四品目 一〇〇% 一、二五一、〇九六円

右の如く分類することに関しても、

甲第四号証の四 売上原価

乙第四号証 簡略照覆書

等により当事者双方に争なきところである。

(ハ) 右各証拠に依りて差益率を求めると、実際上の差益率は次の計算で二割三分八厘となり、第二審判決の如く、差益率三割也とは絶体にならない。

差益率を求める

計算表

〈省略〉

(ニ) 右計算により

家庭用金物は差益率 二割六分六厘 差益金 一三九、七七二、六二円

建築用材は 差益率 一割九分 差益金 七四、〇六九、四一

農機具類は 差益率 一割六分四厘 差益金 三二、八二八、七〇

雑品は 差益率 三割三分九厘 差益金 五一、七三一、五二

合計 差益金 二九八、四〇二円二五銭

となる。

(ホ) 右差益金合計金二九八、四〇二円二五銭を

甲第四号証ノ四、五により二審判決売上原価金一、二五一、〇九六円〇〇で除すると被上告人の所謂加重平均率が出てくる。

この平均差益率は、右計算によると

即ち二割三分八厘である。

(ヘ) 依つてこの計算が次のようになる。

上告人の計算に基く

売上総代価は

売上原価¥1,251,096+品目別加重平均差益金¥298,402.25=¥1,549,498.25

即ち総売上高一百五十四万九千四百九十八円二十五銭となり、

脇町税務署長が上告人へ昭和二十六年三月二十四日本件所得額を更正した根基たる

甲第四号証の三「百五十六万」とほぼ近い金額となり、第二審判決の金額とは著しく異るようになる。

第二審判決では

売上原価に変りはないが、

乙第六号証の出現により敢てこれに追随した判決理由とするために、

乙第三号証の一乃至五による加重平均差益率が三割一分四厘八毛となるように、被上告人の指定代理人達の偽りたる計数説明による陳述を信じて為したがため

総売上高を百六十二万六千四百二十四円也と判断したものである。

そのため総売上高は

右上告の計算に基く真正なるものよりは金七万六千九百二十五円七十五銭の差を生ずるに致つたものである。

(ト) 右事実に基いて第二審の法令違反の判決をしていることは、

(一) 第一点 判決の重要な証拠とした乙第三号証の一乃至五の計数を誤つている。

(二) 第二点 判決の証拠として引用した乙第六号証は偽造文書であることを採用している。

右二点である。

第二点乙第六号証の偽造文書であることは上告理由書における詳論として後記してあるのでこの梗概では偽造文書であることのみを述べておきたい。

二、本件訴訟のうち上告審の争点(その二)

(1) 本件訴訟は売上原価(年間の仕入商品全額)に対し、売掛帳より国税協議官三名が検出した三十五点の完全商品の売価を調べ、之にその商品毎の仕切書原本より照応したる仕入値段を摘出し是により差益額及差益率を算出し、その差益率を右売上原価(年間仕入総高百二十五万一千九十六円)に乗じて収入金額を定めるといつた方式によつて、その所得額(純利益金)を見出そうとするものであるから、従つて、この計算方式によると、

その中に含有せられている保険的意味をもつて既に盛りこまれている、雑損率二%には、一品毎の挙証がないから、雑損金の主張は採用しないという第二審の判決は、木に竹を接いだような、齟齬を露出している。

(チ) 本件裁判の計算方式自体が、

差益率

値引率

雑損率

等の量率をもつて収支計算の主要なる事績根基としているものであり、雑損の率が二%位上告人の営業に於て生ずることが立証され、第二審でも之を窺知されているのであるから、その率量以内の雑損金二一、一二八円は必要経費とするを相当とするとした第一審判断は正しく、第二審判断は判断が誤つている。

(リ) この事項に関する法令違背は

第三点

その理由に齟齬がある。

として、後記上告理由詳論において訴論する。

詳論

なお、前掲上告理由梗概のみにて、本件上告理由が明らかになつた場合は、此の上告理由詳論は読んで載かなくても結構です。

上告理由の梗概表示

一、本件訴訟の争点

二、第二審判決の法令違背の指摘

第一点、判決の証拠として用いられたる乙第三号証の一乃至五が、その内容たる計数が明らかに誤つていることを正確なりとして判決している。

第二点、偽造した証拠を採用して判決の証拠としている。

第三点、判決の理由に齟齬がある。

上告理由の本文(詳論)

一、本件訴訟の争点

上告人金本シゲキは昭和二十五年本件訴訟の原因たる所得を得るために金物小売業を営んでいた当時は(昭和二十五年には)

甲第四号証の二 国税協議団の審査概況

に記載せられたるが如く

その夫金本顕治が昭和九年金物小売業を開業しているうちに大東亜戦争に応召し昭和十九年応召して以来、老母キヌ(当年六十三才にして文字を知らない文盲)及子供(当年十五才男、当年十四才男、当年十二才女、当年九才女)の四人を扶養しつつ単独営業し今日に到つたものである。

従つて寡婦の身を以つて永年因難な事業経営に従事していた関係上資本に乏しく、また仕入のため出歩るくこともならず、仕入は徳島市佐古町金物商近藤商店より所謂問屋仕入れとして有利なメーカー仕入のものは極く僅少な状態である。

また寡婦が一人して営業している関係上労力すら廻りかね、経営方法は旧来の田舎式で商品の配置方法すら弁え得ず、整然たる陳列配置は出来ていない位である。

なお右事情は

甲第一号証 金鵄勲章下賜状

甲第二号証 金本シゲキの戸籍謄本

甲第三号証 育英学資金願

等の証拠についても明らかなるところである。

こうした上告人の環境により、素より営業に関する帳簿組織も欠くるところがあるのは、蓋しやむを得なかつた次第である。

そこで本件訴訟の争点は帳簿に依らないで、所得額を定めるのであるから、

第一、売上原価を何程か審理して貰うこと。

第二、売上原価に対する差益率を審理して貰うこと。

第三、所得を得るに必要なる経費の額を審理して貰うこと。

の三点に要約されているのである。

而して本件上告について上告人は第二審の判決に対しては次のように争点の結果を集約せられる。

第一、売上金に対する原価(本件では昭和二十五年分の商品仕入総額が之に該当することは当事者に争がない。)

右売上原価は

甲第四号証の四 国税協議団の審査決定した売上原価

甲第四号証の五 国税協議団の審査決定した仕入調書

等により

金一百二十五万一千九十六円也

とすることに判決されているのは、上告人の最初の主張であるから是れを諒とし上告はせず認めるところ

(1) 仕入商品の輸送中の破損品が生じた小売商人の自己負担分

(2) 小売販売の陳列中や取扱中に破損品が生じた損害の小売商人自己負担分

(3) 小売りをしてあつても慣行に伴い戻り品があつた場合の小売商人自己負担分

(4) 仕入後小売中に陳腐化した商品の価値下落に伴う損失の小売商人の自己負担分

(5) 目減り量り減りによる損失の小売商人の自己負担分

等は小売りをする商人の必要な経費と認むるを相当とする判決した第一審判決を、第二審ではこれを破毀した判決を下したが、

上告人は第一審判決が正しい判決であり第二審判決は法令に違背しているとして上告しているものである。

(2) その上告の理由は次のような梗概となる。

(イ) 第一審判決ではその理由に

(6)雑損金は金額について争いがあるが証人金川武、同蔭山勇の各証言を綜合すれば、金物小売業者には原告主張のような損害が少くとも仕入高の二%はあり、且は小売業者の負担となつていることが認められる。

しかして原告の主張する金二一、一二八円は、前段認定の原告の仕入高一、四五三、六七一円の二%以下であるから、その全額を必要経費と認めるのが相当である。

と判決せられている。

(ロ) 之に対して被告は控訴理由を立てたが、結局は第二審事実の摘示にあるが如く“尤も利益率を基礎として収支計算をしたような場合には実際斯様な損失があれば控除しなければならないであろう”として、第一審判決を是認しているものである。

(ハ) 第二審裁判においても、その理由において

“被控訴人援用の前示証人金川武、蔭山勇の証言によれば、金物小売商に於ては商品仕入の際又は陳列中に破損したり、或は売却に当り量り込み等の所謂雑損金と称するものが約二%位生ずるのを窺はれないではないと、第一審判決を一応は是認しているものである。

(ニ) 然るに之を破毀し破毀の理由として

被控訴人(本審上告人)に斯る雑損金の具体的に生じたことを窺はれるものがない。

本件訴訟の前置手続たる審査請求中の協議官井上清澄の証言、各品目別に計算していなかつたから否認したとする証言の援用

の理由を掲げている。

(ホ) 元来このような雑損金は上告人の如く、夫の戦死後、文盲なる老母と、子供をつれて只一人で営業している寡婦のよく一点毎に挙証して枚挙出来るものではなく、若し帳簿組織の完備している者なれば、その帳簿の操作のみによりて、この雑損金は始末づけられるものでもある。

況んや整備整頓している人的要素を持つ商人であつても列挙して立証することの難いこの雑損金に就て、人的要素は寡婦只一人、而かも第一審裁判では弁論と立証の結果、実際に雑損金のあつたものと認定せられて、雑損金二一、一二八円を必要経費と認むるを相当とすると判決せられており、被上告人もまた、その判決を容認すべき結論を自白しているのに、第二審裁判所のみが、斯様なる理由のもとに、第一審判断を取り潰すことは、茲に判決理由の齟齬がある。

(ヘ) 小売商人はこのような雑損金の生ずることは不可避な事項に属するので、仕入商品に掛値して売価を定めるときに既に、このような損失を見込んで、保険的意味の売価をつけてあるものであるから、本件のように、売掛商品三十五点を摘出して之が差益率により、仕入全商品代一、二五一、〇九六円に乗じて、収入金額を算出した場合には、その中へはこの雑損金を償うに足るだけの自己保険料も含有しているものである。

(ト) こうした計算により純収入金を算出しているのであるから、雑損金の具体的列挙なく一品毎の証拠を挙るまでもなく、雑損金が金物小売商には二%位生ずることが裁判所で窺はれる限りは、計算上、控除することが適当なる判断であつて、斯くの如く、収入金額を見るのに僅か商品三十五点の差益率で之を求め、その内容たる計数が明らかに誤つていることを正確なりとして判決している。

(1) 本件訴訟について上告人の仕入及販売商品に関してはこれを分別して

家庭金物

建築用材(平板と釘をも含む)

農機具

雑品

の四品目として売上原価を定めることに就ては争ない事実である。

而して第二審判決において判断せられた如く仕入商品の価格は

甲第四号証の五 高松国税協議団徳島支部の審査決定により(仕入調書)

金百二十五万一千九十六円となつていることに就ては争いなきところである。

右国税協議団の審査により

甲第四号証の四、売上原価

により

棚卸高が年初年末同額と認めたので売上原価は年間仕入金額と同額となることも争なきところであるそうして此の仕入原価は品種に分別してその割合は

家庭金物 四二% 五二五、四六一円

建築用材 三一% 三八九、八三九円

農機具 一六% 二〇〇、一七五円

雑品 一一% 一三九、六二一円

合計 一〇〇% 金一、二五一、〇九六円

となつているものである。

(2) これが差益率については

家庭金物は

乙第三号証の三

により仕入及売上をみるときは

〈省略〉

備考 バケツ仕入九〇〇円とあるのは九〇円である、湯タンポ仕入値脱落するも一四〇円である。

合計八点 仕入二、〇二八円、売上二、六〇〇円である。

右証拠により

売上 二、六〇〇円から

仕入 二、〇二八円を差引くと

差益額は 五二七円である。

この差益額五二七円を

右仕入金額二、〇二八円で除すると

差益の率は〇・二八二となる

これに当事者双方認めて争なき

である

第二、売上原価に対する差益率

上告人は第一審に於て右差益率は二割五分と主張したるに対し、被上告人は三割を主張していたが、第一審に於てその判決は二割五分と判断されている。

是に対し被上告人は控訴し第二審に於ては、第一審の二割五分とする判断を取消し三割と判断されている右に対しては不服である。

而して第二審判断が三割としたのは、次の二点の法令違背に基くものである。

(イ) 差益率三割とする証拠として用いられたる

乙第三号証の一乃至五、仕入売上の調査書はその証拠として争なく成立しているものであるが、その内容は差益率三割とはならず、

その計数は

総平均率では 〇・二三七となり、計算を換えて

加重平均率では〇・二三八

となるものであつて、第二審判断は、計数上明らかなるところを計算もせず、単に被上告人の誤魔化しを目的に嘘偽の陳述を為したることをそのまま容認したるものである。

これは国税局の職員は嘘は言わない公務員であることを前程として裁判したる結果であつて、上告人のこの主張は右証拠について計算すれば小学校六年生でも出来る容易なる算術であるから、夫れに実地について計数を調べもしないで被上告人の陳述のみに基いて判断し、その判決は而も一審判決を取消したのであるから孰れの点よりするも法令に違背している。

(ロ) 差益率三割とすることを証拠とするため、その裏付けとして採用した

乙第六号証 実額調査事績表

なるものは偽造文書である。

この偽造文書を判決の証拠として用いたことは法令違反である。

この偽造文書である後記「第二点偽造した文書を証拠として採用して判決している」の項で述べたい。

第三、所得を得るに必要な経費

(イ) 必要経費のうち一〇四、四〇〇円は争がない。

(ロ) 小売商人が商品を仕入れる際の破損品自己負担、陳列中及店頭出し入れの際損品の自己負担、及売却の際の量り込み、目減り、陳腐化した廃品等自己負担等を所謂雑損金として計算した二一、一二八円は、第一審では必要経費なりと判断せられているが、第二審の裁判では理由なくしてこの判断を取消している。

これは判決理由の齟齬を来している。

右判決理由の齟齬の具体的事例は、後記「第三点」に於て詳論する。

右によりこの上告審に於て争点とするところは、

(A) 第一審に於て差益率二割五分としたことを、第二審に於て取消し、差益率三割としたことの不服

(B) 第一審に於て雑損金二一、一二八円は必要経費としていたのに対し、第二審では之を必要経費としないと判決したことの不服

以上二点である

是が不服は第二審裁判に於て以下後記する、法令に違背し是は第一点、第二点、第三点によつて審理を求めるものである。

二、第二審判決の法令違背を指摘

第一点

判決の証拠として用いられたる

乙第三号証の一乃至五が、

甲第四号証の七に基く値引率

〇・〇一六を控除すると

純差益率は〇・二六六となる。

この純差益率を

家庭金物の仕入総額五二五、四六一円に乗ずると家庭金物の荒利益が出てくる。

その荒利益金は一三九、七七二円六二銭となる。

(3) 建築用材は

乙第三号証の一による八点 仕入額 七五六円八七銭

乙第三号証の二による五点 仕入額一、八三〇円〇〇を

合するとこの仕入金額は二、五八六円八七であり

これが売上高は

乙第三号証の一による八点の売上金額一、〇八〇円

乙第三号証の二による五点の売上金額二、〇四〇円

この十三点分を併せて三、一二〇円となる。

右売上高より右仕入高二、五八六円八七を

差引くと荒利益金は五三三円一三となる。

この荒利益金を右仕入額二、五八六円八七で除すると

その差益率は〇・二〇六となり

是より当事者双方認めて争なき

甲第四号証の七に基く値引率

〇・〇一六を控除すると

純差益率は〇・一九〇となる

この純差益率を

建築用材の仕入額総高三八九、八三九円に乗ずると

建築用材の荒利益金は

金七四、〇六九円四一となる

(4) 農機具については

乙第三号証の四により

その売上品七点この金額九九五円となり

その仕入品七点この金額八四三円で

この荒利益金は一五二円となる。

この荒利益金を仕入金額八四三円で除すると

その粗差益率は〇・一八〇となる。

右の中より当事者双方認めて争なき

甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六を控除すると

純差益率は〇・一六四となる。

これを農機具の仕入総額二〇〇、一七五円に乗ずると

その荒利益金は三二、八二八円七〇となる。

(5) 雑品については

乙第三号証の五により

その売上品七点この金額一、六六八円となり

その仕入品七点この金額は一、二三一円で

右売上金額より仕入金額を差引くと

この荒利益金は四三七円となる。

この荒利益金四三七円を

右仕入金額一、二三一円で除すると

粗差益率は〇・三五五となる。

是より当事者双方認めて争のない

甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六を控除すると

純差益率は

〇・三三九となる。

これを雑品の仕入総額一三九、六二一円に乗ずると

その荒利益金は五一、七三一円となる。

(6) 右計算を再録して表示すれば次の如くなる。

即ち本件第二審判決の証拠となしたる

乙第三号証の一乃至五に基く計数上の計算である。

第一表

乙第三号証一乃至五に基く計算

〈省略〉

第二表

乙第三号証の一乃至五に基く計算

〈省略〉

右により列挙商品三十五点を基準として計算すると

品種別計算に基く荒利益金は二九八、四〇二円二五銭

売上原価の四品種合計金は一、二五一、〇九六円〇〇となる。

而して右荒利益金を売上原価で除すると

(その中から甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六を控除すると)

計数上の差益率が

加重平均差益率として出てくる。

そうすると右計算に基くと(是れより甲四ノ七値引率〇・〇一六を控除すると)

加重平均差益率は〇・二三八となつて現われ、

即ち差益率は

二割三分八厘となる。

かくして第二審判決の差益率三割とはならない。

次にこの計算を換えて

総平均率を求める方法を以つて差益率を出してみると左記の如くなる。

総平均により差益率算出書

〈省略〉

右乙第三号証の一乃至五の証拠に基く

商品数三十五点

仕入額 六、六八八円八七銭

売上高 八、三八三円〇〇銭

右荒利益金一、六九四円一三銭となる

この荒利益金を仕入額六、六八八円八七銭で除すると

粗差益率は〇・二五三となり

これに当事者双方に争なき

甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六を控除すると

純差益率は〇・二三七となる

これは二割三分七厘である。

第二審判決では、差益率を三割となし、

その理由として

乙第三号証の一乃至五並第四号証を確認し、又売上品の値引状況及値引率が一・六%となること(甲第四号証の七参照)をも確知し得られたのが認めることができる。

として判断し

そこで右確認の仕入価と売上価とにより商品別取扱割合を乗じたものを綜合した全商品の売買平均差益率が

三一・四九%であることは計数上明らかである。

として、

右乙第二号証の一乃至五に基く差益率を

三一・四九%となし、

これに甲第四号証の七に基く値引率を差引いて

本件訴訟の争点たる

差益率を、三割也と判決している。

総平均差益率 二割三分七厘

故に第一審判決における差益率

二割五分とする判決を取消し

更に小売業者の金物販売差益率を

二割五分とする

甲第二十二号証の A

同 上 B

同 上 C

乙第五号証

甲第四号証の三

一審証人 金川武の証言

一審証人 蔭山勇の証言

二審証人 金川満太郎の証言

二審証人 広瀬敬之の証言

二審証人 新居勝の証言

等を排斥するなれば

右乙第三号証の一乃至五

甲第四号証の七

等の計数に基き

その差益率は

二割三分八厘なりとして

判決せらるべきである。

明らかに計数に表われる限りは理論の余地なく、計数を誤つた判決は法令違背である。

第二点

第二審判決では被上告人が偽造した文書を証拠として採用し是に依存して判決の証拠としている。

(1) 第二審判決の証拠として引用したる

乙第六号証 実額調査事績表

は元来存在したものではなく第二審裁判に証拠として提出するため、被上告人脇町税務署長が、無形の事実を嘘偽に作成した偽造文書である。

(2) そもそも本件訴訟の原因は、昭和二十五年一月一日より同年十二月三十一日までの間における上告人金本シゲキの金物小売業を営み、挙げたる所得に関し、適法期間たる昭和二十六年二月二十八日までに上告人が、確定申告を為したることに対し所得税法第四十六条第一項に規定するところに依り、申告制度による右確定申告が

「政府に於て調査したるところと異なるときは、その調査によりこれ等の額の更正を為す」と規律されているのであるから、被上告人脇町税務署長が

甲第五号証 昭和二十五年分所得金額の更正通知書

を上告人へ昭和二十六年三月二十四日附で、送達し所得額を金三十一万二千円也と更正の決定をしたことについては、右昭和二十六年三月二十四日以前に為さるべき「調査に基いたもの」とすべきである。

然るに

乙第六号証は昭和二十六年六月十四日調査裁決したこととなつている。

故に乙第六号証実額調査事績表なるものは、右所得税法第四十六条第一項に規定する、政府の調査というべきではない。

右法条の規定に基く政府の調査とは、

甲第四号証ノ三 国税協議団審理の内容に明記するが如く、脇町税務署長は

「同業者の権衡及一般商況により上告人の売上高を毎月平均十三万円と推定し、一年間売上高を百五十六万円と推定しこれに所得標準率二〇%を乗じて所得金額三十一万一千円と算出し」

右算出したるものを上告人の昭和二十五年分所得なりとして、昭和二十六年三月二十四日所得税法第四十六条第一項に基く、更正を為し通知されたものである。

(3) 右計算により明らかに認められることは、

(イ) 年間売上高、百五十六万円であること

(ロ) そのうち二〇%が利益であり、八〇%が売上原価(本件の場合は年間仕入総高をもつて売上原価とすることについては当事者双方に争がない。)となつていること。

(ハ) 従つて一、五六〇、〇〇〇円の二〇%は

三一二、〇〇〇円であり、

一、五六〇、〇〇〇円の八〇%は

一、二四八、〇〇〇円となる。

よつて脇町税務署長は、

所得税法第四十六条第一項の規定により

上告人金本シゲキの昭和二十五年度分の

売上原価(即ち仕入総額)は

百二十四万八千円也

その利益金は

三十一万二千円也

と更正し決定して通知しているものである。

(ニ) 右により利益金三一二、〇〇〇円を売上原価一、二四八、〇〇〇円で除すると利益率(即ち差益率が生じる。)即ち

312,000円÷1,248,000円=0.25

二割半(二五%)が差益率となつている。

(ホ) そこで被上告人脇町税務署長は

所得税法第九条第一項第四号の規定する

「商業、工業、農業、水産業、医業、著述業その他命令で定めるものから生ずる所得は、その年中の総収入金額から必要な経費を控除した金額」

右の必要な経費を控除しないで、上告人の所得を定めていたものである。

(ヘ) 右必要な経費の意義は、

同法第十条第二項に規定しているが、被上告人は仕入品の原価を差し引いたのみにして、その他の経営に要する費用及減価償却金等の控除をしないで計算しているものである。

(4) 右脇町税務署長の更正した通知に対して上告人は不服として之を

甲第七号証 再調査請求書

の如く、昭和二十六年三月二十九日、被上告人脇町税務署長に対し再調査の請求を為し、損益計算書及これが収支を明らかにする明細書を添付したのである。

然れ共被上告人脇町税務署長は之に一顧も与えず、また再調査もせず、且つは

甲第八号証 差押調書

の如く、昭和二十六年五月十一日上告人の家宅を捜査して差押えを為し

甲第九号証 苦情申立書

の如く右家宅捜索に際し上告人が、若い戦争未亡人であり女の嗜みとして、避姙用サツク「二打箱入りにして未だ開封せず」を箪笥の抽出しの裏より探り出し、

これが有る限りは女の貞操を売つて所得を挙げているものと推定し、

昭和二十六年三月二十四日被上告人脇町税務署長の為したる三十一万二千円は右避姙用サツクの有つたことの裏づけにより妥当なりと為し

甲第十一号証 差押引揚調書

甲第十二号証差押物件の評価等に関する件

等の如く昭和二十六年五月十七日差押物件をトラツクに二台満載して引き揚げたものである。

而して

甲第十号証 再調査の決定通知書

の如くその翌日五月十八日附をもつて

再調査の請求を棄却したのである。

乙第六号証 実額調査実績表

はこの時は無かつたものである。

乙第六号証の実額調査をしたというのは、右証拠によりても明かなる如く、昭和二十六年六月十四日裁決とあるから再調査の請求を棄却してより二十七日後であり。

所得税法第四十八条第五項第二号に基く棄却の処分を為したる後に於て而も二十七日後に於て、脇町税務署長は何の必要あつて昭和二十五年分所得の調査をするのであろうか。

(5) 上告人は右棄却処分に不服であつたから、

甲第十三号証 審査請求書

の如く昭和二十六年五月二十八日所得税法第四十九条第一項に基く審査の請求をしたものである。

この審査は高松国税協議団徳島支部に於て、昭和二十六年八月四日より同年十一月十五日まで鋭意為されたものであるが、

その当時は

乙第六号証 実額調査実績表

は無かつたものである。

右実績表は昭和二十六年六月十四日決済したと有るも、その後に於て行われたる審査期間中には脇町税務署長は国税協議官が数度脇町税務署へ出張して資料の掲示を促し、また簡略照覆書により三回迄もその回答を促されたるも、之が掲示はなく、資料として掲示したのは

甲第四号証の三審理の内容に

記載されたる事項のみである。

(6) また右審査の請求は所得税法第四十九条第六項第三号の規定により一部取消しの処分があつたが上告人は不服であつたから同法第五十一条第一項の規定により出訴したものである。

而して本件訴訟は第一審に於て準備手続を経た裁判である。

しかもその準備手続たるや回を重ねること繁く、且つは相当永らくの間これを継続されている。

更にまた被告税務署長の指定代理人には

脇町税務署直税課長 片岡正造

高松国税局訴訟係 土井照則

徳島地方法務局訟務課長 高原喜平

高松法務局次長(検事) 水池巖

等四名が準備手続中も欠ぐるところなく出頭していたものであり、

特に水池巖は本件一審の裁判には最後の法廷までも弁論を続け、その終結後暫らく経た昭和二十八年十月一日附をもつて裁判官に転官したものであるから、民事訴訟法の規定するところにより、準備手続中に証拠は提出して置く事ぐらいは知つている筈であり、また徳島地方法務局訟務課長高原喜平も職掌柄としても之を知つている筈である。

然るに右乙第六号証は第一審裁判には証拠として提出していなかつたものである。

是は第一審裁判当時には無かつたから提出できなかつたものである。

若し第一審裁判当時にこれ有りしものなれば、右乙第六号証、実額調査事績表なるものの決裁には、昭和二十六年六月十四日課長の押印が有るのであるから本件指定代理人、脇町税務署直税課長片岡正造は自ら決裁の課長として之を知らない筈はないから、第一審裁判の準備手続中に証拠として提出している筈である。

要するに第一審当時には無かつたものである。

(7) 乙第六号証は第一審裁判において、その差益率を二割五分とせられたことに対し、被上告人は不服として控訴し、その差益率を三割とする証拠のため作られたものである。

本件第一審の判決言渡しは昭和二十八年七月十五日であつて、

乙第六号証を被上告人の指定代理人

土井照則が謄写したとして提出したのは、昭和二十八年九月二十九日であるから、第一審判決言渡し後八十六日後に乙第六号証は土井が謄写して第二審法廷で提出している。

第一審で準備手続を経た裁判には提出しなかつた証拠を第二審に於て証拠提出を容易に許した高松高等裁判所の裁判の仕方もおかしい。

それにこの証拠に基き第一審判決を取消すべき裏付けとしたこともおかしい。

(8) 次に本件乙第六号証の内容の事項は悉く第二審裁判に証拠とすべく、被上告人が濫りに公文書類似の文書として作つたものである。

乙第六号証は公務員がその職務を行うため公文書として作成したものではない。

私文書である。

何となれば

被上告人脇町税務署長が公務のため作られる此種文書は処分の権能を有し、その職務のため作成せられたものを公文書というべきである。

昭和二十五年分の上告人へ対する

所得税法第四十六条第一項に基く更正の決定は昭和二十六年三月二十四日附に処理済であり、

且つ同第四十八条第五項第二号に基く再調査棄却の処分をしたのは、昭和二十六年五月十八日である。

(甲第五号証及甲第十号証参照)

右により上告人金本シゲキに対する被上告人脇町税務署長よりは最早昭和二十五年分所得に関する処分の権能は何等存在しないのである。

然るに昭和二十六年六月十四日に上告人の昭和二十五年分所得額に対する実額調査をしたと称するも既に税務署長として同年度所得額に関する処分の権能を行使したる後において、何の公務が残存するものであろうか。

乙第六号証は所得税法に関する税務署長が処分の権能があつて作られたものでは、絶対にない。

所得税法に於ても一事不再理の原則を重用せられ、

同一環境において税務署長が調査不充分の故を以つて、更正決定を再三繰り返せるものでもないまた再調査の棄却処分を再三繰り返せるものでもない。

然る故に上告人に対しては被上告人税務署長から、昭和二十五年分更正決定を最早為す権能なく、また再調査を行うべき権限もなく、従つて右乙第六号証は処分の権能の全く無い税務署長が為したる事績表であつて、公文書なりとは謂い難く、況んや第二審裁判の証拠のため特に作られたる文書であるから、公務員が公法上の機能を行使するため税法に基く権能ある公文書ではなく、私文書である。

(9) またその内容の検討をするに、上告人にも憲法第十一条に条規せられる基本的人権を有する限りは一時不再理の原則を主張できるものであると解すべきであろう。

而して昭和二十五年分上告人の所得額更正については

甲第四号証ノ三 審理の内容

の如く

上告人の同年中の売上高は百五十六万円その売上原価は百二十四万八千円とするところは基礎となるものであり、是を恣に変更できるものではない。

故に右

売上総額 一、五六〇、〇〇〇円

売上原価 一、二四八、〇〇〇円

荒利益金 三一二、〇〇〇円

とする更正の範囲を超越しては、不服救済の再調査も審査も、訴訟も有り得ないとすべきである。

昭和二十五年分上告人の所得額に対する申告に対しこれを更正する機能を有するものは、

所得税法第四十六条第一項の規定のみかないからである。

故に上告人が右法条に係る更正の決定を不服として

同法第四十八条第一項に基く再調査の請求があつた場合

税務署長が再調査して若し一部取消又は全部取消の必要があれば、取消すことは規定せられているが、若し仮りに再調査の結果所得が殖えることがあつても、増額できるものではなく請求に理由なしとして棄却するだけである。

(同法条第五項各号参照)

また次に続けて

同法第四十九条第一項に基く審査の請求をしても

国税局長は一部又は全部取消す必要が有れば原処分の一部又は全部の取消しをしなければならないが、審査の結果所得が殖える計算が生じても、之を増額処分する権能はなく、単に請求に理由なしとして棄却する権能のみか与えられていないのである。

(同法第六項各号参照)

更にまた

同法第五十一条第一項の規定により出訴した場合に於てもその一部又は全部を取消す判決は出来るが審理の結果、所得額が増大することがあつても、原処分を乗り越して裁判所より更正増額する判決は出来ないものであり、その場合は単に請求に理由なしとして棄却の判決を為さるべきであろう。

(民事訴訟法第百八十六条参照)

本件訴訟において

第一審準備手続に於て既に

甲第四号証ノ三 審理の内容

は提出せられ当事者双方に争いなく成立しているのであるから、

その総売上高は百五十六万円

その仕入品代(売上原価)は百二十四万八千円

その荒利益金は三十一万二千円

その差益率は二五%

として、被告(被上告人)が更正決定の処分をしてあることは明らかに認めているものであるのに

第二審に於て提出した

乙第六号証を採用し

判決理由に於て

“被控訴人の昭和二十五年における商品仕入高は金一、二五一、〇九六円であつたことが認められるので、右認定の差益率三〇%の計算による利益金三七五、三二八円を加算した金一、六二六、四二四円をもつて叙上調査により認められる被控訴人の同年度売上高と做すべきである。

(このことは前記勝浦証人の証言により調査の結果が記載されているという、乙第六号証における被控訴人の昭和二十五年度売上高金一、六九八、二〇〇とあることに略近い額であり相当と思料される)”

として

第一審準備手続中から当事者双方の認めて争のない

甲第四号証ノ三に基く

売上高 一、五六〇、〇〇〇円

差益率二五%

は無視没却し

第二審で俄かに登場した偽造文書

乙第六号証に基く

売上高 一、六九八、二〇〇円

差益率三〇%

が有効化し、而かもこれに基き

乙第三号証ノ一乃至五の

誤つた計数差益率三〇%が

判決の重要なる証拠として、見出されており、

そのため一審判決の差益率二五%は無闇に取り潰されている。

第二審のこの判断は随分無理なやり方で法令違背も甚だしい。

(10) 本稿の最後に乙第六号証が偽造文書である実質上の所論をする。

乙第六号証が仮りに被上告人の記載の日附であつたとしても、昭和二十六年六月十四日であるから、

被上告人脇町税務署長が

上告人金本シゲキに対し

昭和二十六年三月二十四日更正の処分を為し

昭和二十六年五月十八日再調査棄却の処分

を行つた後である。

脇町税務署長の有する所得税法

第四十六条第一項

第四十八条第五項

の処分権を行使終了したる後であつて税務署長の権限において、最早昭和二十五年分の所得額に関する処分の権能は実質的に在り得ない。

而して再調査棄却の前提としては

前掲

甲第八号証 差押調書

甲第九号証 苦情申立書

甲第十一号証 引揚調書

甲第十二号証 差押品評価明細書

等の内容に於て見られる如く、及前掲(4)に記載せるが如く、

不当なる差押えを口実に不当なる

家宅捜索を強行し

可弱い婦女子の秘密漏洩

不当なる差押品の引揚

不当なる再調査の棄却

等恰も武家時代の悪代官のような乱暴と人権侵害を行ないたる後であるから、

昭和二十五年分の所得に関する限り脇町税務署の吏員に対して、上告人は最早相手にもしなかつたものである。

故に右文書は被上告人が恣に独断専行、嘘偽の事項を竝べて作つたものである。

それで

この調査には次の如き欠陥要件がある。

(イ) この調査は調査を受けたものの証明印がない。

(ロ) この調査は故意に仕入値の安いものを拾いあげて原価となし、売値は調査したと称する者が勝手に値段をつけている。

(ハ) 商品名のみを記入し、銘柄、規格、は全然ない。

(ニ) 仕切書には必ず、品名、銘柄、規格、数量、単価、金額等が明記してある。

然るに

乙第六号証の調査事績表と称するものは、

(ホ) 巾、目、線の太さ等全く不明のもの、

(ヘ) 厚ミ、巾、等全く不明のもの

(ト) 取扱つていない、パルプ等を列記登載し

(チ) 豆煎、バケツ、洋ナイフのように五種類もあるのに規格全く不明のもの、

(リ) 霧吹の如く、真鍮、トタンと及大小等極端に値段の違うのにその銘柄規格なく、

(ヌ) 金タライの如く、仕入値は尺六の値段で売価は尺八の値段をとつているもの

(ル) 鋸の如く規格は判つていても銘柄によつて値段に大差あるものを、安いものが仕入値になつて銘柄の高級のものが売値となつているもの

(オ) ノボリ鎌のように目方で売るものを個数売りとして記載しているもの

(ワ) ピンセツト、犬クサリのように鉄か真鍮かで値段に大差あるのに全く明記なく

(カ) スコツプの如く練スコ、足丸、角スコ等用途別が有るのに夫れの明記なく、またその用途毎に更に銘柄、印があるのにそれがない。

(ヨ) ポンプピストンの如く三寸五分か四寸用か、一枚皮か継皮かで値段の大差があるのに全く判らない。

(タ) 其他物品比々皆然りで、只認められるのは青網と魚焼網と二点のみである。

かくして規格、銘柄なくして、只単に品名のみを記載して、夫れで仕入商品を売値にあて込み、是が判決の証拠となるような裁判をするのは、随分無法な裁判で、

恰も指名犯人があつた場合に

同性同名の者が見つかつたならば、その住所、原籍地、生年月日、及性別をも顧みないで、真犯人と看做して逮捕し、その審理もしないで処罰するようなものである。

乙第六号証及第七号証の、こうした無茶九茶なやり方の否認は

第二審に於て被控訴人(本審の上告人)から昭和二十八年十月二十七日附準備書面で品目別に一品宛丹念に否認理由をつけてある。

乙第六号証が偽造した文書であるというのは、右のように、

(一) 本件控訴審の証拠に行使の目的をもつて

(二) 被上告人が事実上は、処分の権が有るが如く装つて実額調査事績表なるものを作り、

(三) その内容に嘘偽の事項を記載し

(四) 而かも税務署長の決裁判の押捺されない課長のみが作つた、私文書を以つて恰も公文書の如く思わせて之を行使しているものである。

なお脇町税務署長は昭和二十六年六月十四日当時は、大蔵事務官佐々木滋雄であつたが、昭和二十八年七月転勤しているので昭和二十六年六月十四日の日附としたため佐々木署長の決裁印判の押捺の由なく、ついには本件乙第六号証にはその署長決裁の印判なきことを、着目せられたい。

(11) 右第二点の上告理由を陳述しました。

かかる乙第六号証を採用し、之を理論を合わすための判決理由は高等裁判所の判決としては余りにも無理であり、法令に違背すると訴論するものです。

第三点

第二審判決ではその理由に齟齬がある。

即ち売上原価(本件訴訟では年間仕入高を以つて売上原価とすることに就ては当事者双方に争なく第一審も第二審も之については争つていない)

是に対する差益率を以つて乗じて総売上高を検出した本件訴訟のような場合には、

(イ) 小売商人が商品を仕入れて輸送中部分的に破損品を生じたものは小売商人の自己負担で雑損金となる。

(ロ) 小売商人が店頭陳列の際顧客が取り毀し又は小売商人自身が取扱上破損品を生じざるを得なかつた損失は小売商人の自己負担で雑損金となる。

(ハ) 流行遅れ売残り品の廃棄処分が生じざるを得ないが、こうした損失金は小売商人の自己負担で雑損金となる。

(ニ) 小売商人の商品を仕入れて販売するうちに部分品が不足したり又は紛失したり盗まれたりした場合には、商品全部の価値がなくなり廃棄のやむなきに立到るがこの損失は小売商人の自己負担となり雑損金となる。

(ホ) 大工道具は売値は高いが使つてみて具合が悪かつたなら戻り品となり、この損失は小売商人の自己負担となり雑損金となる。

(ヘ) 小売商人が商品を仕入れて小売りにする場合目減り計り込みが生ずるのは蓋しやむを得ない現象であつて、金物商人では、釘、針金、金網、チエン、斧、柄鎌、砥石、等は顕著なる該当品であり、この損失分は本件訴訟の計算方式から見れば雑損金となり小売商人の自己負担となつている。

右に列挙したように総ては小売商人たる上告人の営業上に於ける雑損金であるから、この具体的事実は第一審準備手続中に昭和二十七年八月十二日附原告提出準備書面「第九章雑損失金の根基について」と題して提出して弁論に代えてあるものであり、また昭和二十七年十一月四日附原告提出準備書面「第十五章釘のような量り減りのするものを小売にして仕入れたものを、そのままの目方に売れるものであろうか、針金、金網、チエン、砥石等皆然り」第十六章仕入品に利益率を乗じて総売上高を計算する場合に運送中の破損品の自己負担、取扱中の破損自己負担、売却後の破損、戻り品の損失、流行遅れの値引予定置き古し商品の品崩れ予定などは、どのように計算するのであろうか、第九章参照」の題下に弁論を為し準備手続は終了したので、

更に法廷に於て、脇町税務署管内、美馬郡貞光町金物小売業金川武、美馬郡穴吹町金物小売業蔭山勇の両証人の証言を採用せられ、第一審判決では雑損金二一、一二八円は必要経費と認めるのが相当であると判断せられていることに対し、第二審判決ではこうした雑損金と称するものが約二%位生ずるを普通とするのを窺はれないではないが、被控訴人(本審の上告人)の全立証によるも被控訴人方に斯る雑損金の具体的に生じていたことを窺はれるものがない。として、第一審判決を取り毀し雑損金二一、一二八円を必要経費と認めるのは相当でないと判決している。

茲に判決理由の齟齬がある。

上告人は第二審のこの判決(判断)には不服であるから次に第二審の法令違背を述べる。

雑損金二一、一二八円を必要経費とすることを相当でないとする第二審判決に対する法令違背の指摘

(1) 第一審判決では雑損金を必要経費として認めることを相当とするとして、その理由は

“雑損金は金額について争いがあるが証人金川武、同蔭山勇の各証言を綜合すれば金物小売業者には原告主張のような損害が少くとも仕入高の二%はあり、且つこれは小売業者の負担となつていることが認められる。しかして原告の主張する金二一、一二八円は前段認定の原告仕入高一、四五三、六七一円の二%以下であるから、その金額を必要経費と認めるのが相当である。”

として、仕入高の二%以内なるが故にその金額は必要経費として認めるのが相当であることを判決している。

右の判断を下されたのは、

この判断の内容よりみるも次の如き内容を含んでいるものである。

(イ) 雑損金は必要経費としないとする被告の論説と必要経費とすべきであるとの原告の論説とが対立した結果、本件の訴訟のように仕入商品の金高に差益率を乗じた場合の計算方式では、この場合の雑損金は必要経費として所得金(利益金)から控除することが相当であると判断せられたこと。

(ロ) 原告より雑損金の生ずる具体的事例を挙げてそれにより仕入高(売上原価)の二%が是に該当すると訴論し、その金額に争があつたこと。

(ハ) 金物小売業者、証人金川武、同蔭山勇の両証人の証言によりて二%位いの雑損金のあることが確認づけられたこと。

(ニ) 国税協議官証人井上清澄が本件訴訟の前置手続たる審査請求中に右雑損金を否認したとする証言はあつたが、第一審裁判では、その否認した井上清澄等協議官の行為に対する不服が所得税法第五十一条第一項に規定する救済手段としての出訴であり、裁判の結果はこの雑損金を認めることが相当であるとされていること。

(ホ) その原告主張の二一、一二八円は仕入高の二%以内であるから、原告主張に無理がなく正しいとして容認せられていること。

等の内容が右第一審判断には盛り込まれているものである。

(2) 故に第二審においてこれが二一、一二八円全部を雑損金として否認する判決を下すのには、相当強力な右第一審の認定を覆すに足るだけの証拠がなくてはならない筈である。

然るに夫れなくして濫りに一審判決を取潰している。

“被控訴人援用の前示証人金川武、蔭山勇の証言によれば金物小売商においては、商品仕入の際又は陳列中に破損したり或は売却に際し量り込み等の所謂雑損金と称するものが約二%位生ずるを普通とするのを窺はれないではないが、被控訴人の全立証によるも被控訴人方に斯る雑損金の具体的に生じていたことを窺はれるものがない。却つて前示証人井上証人の証言によれば被控訴人は雑損金として総仕入額の約二%を計上していたに過ぎず、各品目別に計算されていなかつたから否認したのであることを認められ、斯様な雑損金のあることが具体的に証明できなかつたのを窺知できるから雑損金があつたとの主張は採用できない。

として判決している。

この判決理由はこれを分解すると次の如くなる。

(イ) 証人金川武、蔭山勇の証言により金物小売商においては所謂雑損金と称するものが仕入高の二%位生ずるのを普通とすることは窺はれる。(即ち一般金物小売商人では認める)(認めることが普通である。)

(ロ) だが併し上告人(被控訴人)方に於ては全立証を以てするも具体的にかかる雑損金を生じたものを窺はれない。

(ハ) それどころか、証人井上清澄の証言によれば各品目別に雑損金の計算ができてなかつたから雑損金は無かつたものである。

右のようにも解釈することが出来る。

右の分解方式により上告人は次のように訴論する。

(イ) 雑損金が金川武、蔭山勇の両証言の如く二%ありとする第二審判断は第一審判断の通りであるから適当なる第二審判断である。

(ロ) 上告人は第一審準備手続中に昭和二十七年八月十二日附準備書面「第九章雑損金の根基について」と題して右雑損金の生ずる具体的事実を挙証立論している。

この準備書面の弁論は第二審裁判でも法廷で陳述してある。

また、この実際については上告人は前叙の如く未亡人で女子一人が商業を営んでいるので帳簿のつけ方も十分心得なかつたし、又棚卸ろしの仕方も知らなかつたので、是等のことを頼んでいる同業者、貞光町金川武、穴吹町蔭山勇が、その実情をよく知つているので、第一審裁判では、その実情を証言して貰つたものである。

また、乙第三号証の一乃至五が差益率の証拠として被告(被上告人)が主張したのに対し、この証拠の計算では別に雑損金として、目減りは斯くの如き計算となると、昭和二十七年十一月四日附準備書面「第十五章釘のような量り減りのするものを小売にして仕入れたものをそのままの目方に売れるものであろうか。針金、金網、チエン、砥石等々皆然り」として極めて明瞭且つ具体的に計数上の事実、仕入値、仕入先、小売販売の例等乙第三号証一について挙証立論している。

この準備書面に基く弁論も第二審裁判の第一回法廷で陳述してある。

また民事訴訟法第三百七十七条乃至第三百八十条の規定により第二審の裁判では、第一審裁判口頭弁論の結果を陳述し、第一審の訴訟行為は控訴審においても効力を有し、また第一審に於て為したる準備手続は控訴審に於てもその効力を有するものであるから、上告人が第一審に於て提出したる右準備書面の内容についても、これが争点であるかぎりは控訴審に於ても判断を遺脱せらるべきではない。

また第一審に於て立証したる右金川武、蔭山勇の証言も第二審に於て引続き上告人の右事実の証言であり証拠である。

然るに第二審判決では、右具体的弁論及証言があればこそ、第一審判決において雑損金二一、一二八円は必要経費とするを相当とすると判決されているのにかかわらず、之を全く無視し

弁論と証拠が無かつたこととして判断していることは全く違法な判決理由となる。

(ハ) 井上証人の証言は第一審に於て為されたものであり、その証言内容が事実に即しない証言であることは前叙原告の準備書面による具体的事例、及金川、蔭山の両証言によりて第一審裁判では採用されなかつたものであるのに、第二審裁判では、前叙原告提出の具体的事例を掲げたる準備書面及金川、蔭山の証言内容の検討も加えられず、単に被控訴人の全立証によるも被控訴人方に斯る雑損金の具体的に生じていたことが窺はれるものがないとの前提のもとに井上証言を引用しているものであつて、是は軽卒極まる判決である。

そうして法令に違背した判決となつているのである。

(3) 上告人が昭和二十七年八月十二日附準備書面第九章において

雑損金の根基について

陳述してある要旨は次の如くである。

Ⅰ 破損品の自己負担

(1) 鋳鉄製品の破損は運送途中に於て発生するものであり、

角ス、丸ス、釜輪、焚口、平鍋等は店舗に保管中にも破損する場合あり、

(2) 平板、アルマイト、アルミ、アルマイト板製品は運送中において破損品が生じ易いのでこれも雑損金として損失は小売商人の自己負担となる商慣習となつている。

(イ) 平板、バケツ等は二十四個につき二個の割合に不良品があつて売れない。

(ロ) また途中輸送中に耳がかけたり底輪が外れたりするものが二十四個の内三個の率である。

(ハ) アルミ、アルマイト板製品は輸送途中で潰れるものが多い。湯ワカシ、洗面、タライ、等たとえば弁当箱は百個に三個から四個は形が変つて売れ残る。

(3) 木製品の破損

(イ) 釜フタ、鍋フタ、等割れるものが十個に二個は有るが不可抗力的な損失を生ずる。

(ロ) 木製農具たとえば田草取器の如きは輸送中の破損は素より、店舗においても保管中に破損変形により十個に一個以上の割合で売れないものが生ずる。

(4) 針金製品の破損

(イ) 鼠取り等の押し潰れ運送中保管中における錆。

(ロ) フルイ・ケンドの底抜け及錆。

(5) 大工道具の破損及品戻り損

(イ) 大工道具特にノミ、カンナの類は木部の破損刃コボレ、赤錆等が発生しやすいが、総ての損金は小売商人の自己負担である。

(ロ) 不良品であつても仕入先に返品できない商慣行となつているものは、ナイフ、鋸、鉋丁其の他を需要家より戻り品が往々にしてあるがその損失は小売商人の自己負担である。

(6) 一般刃物の不良品

(イ) 鎌其の他の刃物は刃コボレがあつたり赤錆が生じたなら商品価値がなくなるが、運送中の刃コボレ保管中の赤錆が百個につき五個の割合で発生する。この損失は小売商人の自己負担。

(ロ) 使つてみて品が悪いとして戻りの生ずるのは百個のうち二個はあつてこの損失は小売商人の自己負担である。

(7) 土製品の破損

金物屋では金物のみか取扱えないとすることなく、類似品として土製品も取扱つている。

土製のコンロのスは十個に二個の割合で毀れる。この損失は小売商人の自己負担である。

他の土製品は概ねこの割合で毀れる。

Ⅱ 流行遅れ売残品の廃棄処分

農具の如く、また一般家庭用品に於ても時代の変遷によりて流行が異り、売残りが生じ、また進歩したるものに押されて売れなくなるものがある。

この損失は小売商人の自己負担である。

原告の顕著なる事例として、

棉くり器、鋳物の一号先、誘蛾灯等であつて、その他のもの総てこの傾向がある。

Ⅲ 部分品が不足又は紛失に伴う廃棄処分

(1) 錠前の鍵なし、破損品、等

(2) 共蓋鍋の蓋なし等此類多し

(3) バリカンの止捻子なし、バネなし

このようなものが発生しなくては、良いのであるが已むなく、発生する。

この損失は小売業者の自己負担

IIII 店舗に保管中に不可抗力による破損品の発生。

顕著な例、カスガイの折れたもの、レールの折れたもの、砥石の割れたもの、

この損失金は小売業者の自己負担。

Ⅴ 目減り計り込み等の損失金

(1) 釘一樽十六貫に対し最低一〇〇匁につき三匁の割合で計り込む、夫れに釘は最後には垢という金の粉が残る。

一樽には四八〇匁又は五〇〇匁の計りこみとなる。

(2) 針金一丸では五十キログラムであるが、これは十三メ三百匁であり、之に対し百匁で三匁の計り込みを生じ一丸では四百匁の量りこみが発生する。

(3) 金網百尺巻きは、最初から百尺なく九十三尺乃至九十六尺かない。

小売とするとき、一目はどうしても切らなくては売ることができない。

この切り目の損と前者の縮み損とを併せて、百尺巻きは小売にして九尺は減つて了う。

(4) チエンを販売するときには、切るときに二寸位の鎖一つは破毀しなくてはならない。百尺を二十回に小売すると四尺は切り目の損失が当然出て来る。

(5) 斧、柄鎌、砥石カスガイ、ボールナツト、等を総重量で仕入れ一ケ宛小売にすると四百匁に五匁は量りこむ。

是等の目盛り量りこみの損失については、本件訴訟の計算では、小売商人の自己負担となつている。

(4) 本件訴訟の重要なる証拠として差益率を計算づけているのは、乙第三号証の一乃至五である。

右証拠五葉を併せて挙証商品は三十五点である。

そのうち右目減り量り込みの生ずる物品は五点列挙せられている。

即ち

乙第三号証の一

釘 二吋

〃 四吋

〃 〃

乙第三号証の四

乙第三号証の五

砥石

以上五点である。

是等は、目減り量り込みのない、計数上あらわれたる単価をもつて、売上商品の売値との差益金をもつて差益率を見出し、その差益率をもつて、仕入商品高に乗じて、売上高を求める形式の裁判となつている。

これについて差益率の計算が右の方式となつている限りは、その後において、その真正さを見出すため目減り量り減りを計算して是正しなくては小売商人たる上告人は、利益のないのに利益のあつた計算上の操作のため損失を被ることとなる。

この事については一番影響の多い釘二点を例にとりて、一審準備手続中において

昭和二十七年十一月四日附原告準備書面第十五章において訴論してあるものである。

先づ釘の仕入れは

甲第四号証ノ六 国税協議団審査に基く釘仕入調査(P一七)

この証拠は被上告人も成立を認めて争はないものである。

右調書に依り明かなるが如く

釘の仕入れ高は

(イ) 近藤金物店より 二八樽 五八、九八〇円

(ロ) 亀井金物店より 三樽 六、七二〇円

(ハ) 新居金物店より 二樽 六、九〇〇円

(ニ) 亀井金物店より 二樽 三、八〇〇円

(ホ) 金谷金物店より 六樽 一〇、〇二五円

合計 四十一樽 仕入高 八六、四二五円

である。

右釘の仕入高八六、四二五円は

上告人の仕入総額一、二五一、〇九六円から見れば

〇・〇六九強に相当している。

さて、乙第三号証ノ一による釘は

(イ) 近藤より二月七日仕入2吋釘貫一一二円五〇銭

(ロ) 同店より同日仕入4吋釘貫一〇〇円〇〇

(ハ) 同店より二月二十六日仕込4吋釘貫一〇九円三七銭

合計 三口 合計仕入 三二一円八七銭

であるが是は一樽を十六貫で割つた単価である。

而して右売上高三口計四八〇円

その差益金百五十八円十三銭

この差益率は四割九分一厘強となる。

この計算に基くものが、本件差益率の計算には含まれているのである。

ところが

実際は

小売の量減りと垢減りのため一樽仕入れたものが十六貫はなく、五百匁減量して

十五貫五百となるのが通則であるから

(イ) 二月七日近藤仕入二吋壱樽壱千八百円を十五メ五百で割ると一貫目の単価百十六円十三銭となる。

(ロ) 同日近藤仕入四吋釘一樽壱千六百円を十五貫五百で割ると一貫目の単価百〇三円二十二銭となる。

(ハ) 二月二十六日近藤仕入四吋釘壱樽壱千七百五十円を十五貫五百で割ると一貫目の単価百十二円九十銭となる。

右三筆の正味原価合計三百三十二円二十五銭

右三筆分の売上高は前掲の如く四百八十円である。

右差益金は百四十七円七十五銭

右差益率は四割四分四厘強である。

而して

是を

乙第三号証ノ一に基く差益率は

〇・四九一であり

実質上の差益率は

〇・四四四である。

この差〇・〇四七は

乙第三号証ノ一により仮空の数字がそのまま差益率として混入している。

是れを、このまま釘総仕入高八六、四二五円に持つてくると。

釘仕入総額 86,425円×0.047=4,061.97

即ちこの釘だけの計算をもつてするも

金四千六十一円九十七銭の

仮空利益金が乙第三号証ノ一の釘のみにても含んでいることとなる。

この計算は第一審準備手続中の原告提出昭和二十七年十一月四日附準備書面第十五章に明確なる数字を挙げて証拠立てている。

これに対しては被告も認めて反論のなかつたものである。

然るに第二審判決では是等の訴論は全くなかつたことを前提として判決している。

(5) 次に右雑損金なるものは、本件訴訟の如く仕入金額の総てに差益率を乗じて荒利益を算出する方式の算用においては、

前掲(3)に明示するが如き雑損金を控除しなくては、輸送中の破損品にも保管中の破損品にも慣行に基く戻り品にも、不良品にも流行遅れとなつて売残つたものにも、部分品の紛失盗難品にも、店舗における不可抗力による破損品にも総て一様に利益が挙つた計算となつているのであるから、これを真正なる利益金を見出すためには、雑損金として右仮空上の計算より是正しなくてはならないのである。

これは、この種の計算方式としては雑損金を差引くことは正当なる原則とすべきであらねばならない。

(6) 簿記法に通じ確実なる帳簿組織による場合は金銭出納簿その他の帳簿により帳簿のままの数字を認められる場合には素よりかかる雑損金は現出することもないのであるが、本件訴訟における計算方式ではまことにやむを得ないことである。

また年初年末棚卸しが正確なる場合は破損品、流行遅れの廃棄品等または、利益とならない見切品などは棚卸に現はれるので、その見積替えによつて補正することも大部分は出来得る場合もあるが、本件訴訟の如く年末棚卸しはあつても年初棚卸のないが為めに仕入総額をもつて売上原価と看做し、夫れの総額に、完全に商品価値を有する、而かも値引きの事実なき売掛商品のみについて、その売掛帳より乙第三号証ノ一乃至五による三十五点の商品を国税協議官三名が検出し、之が仕入価格は仕入の仕切書原本に基いて抽出し、これに基いて差益額を求めて差益率を算出し之を仕入全商品に乗じて利益金とするのであるから、前叙雑損金を差引かないでは事実上純利益とならない、仮空の数字を含んだ利益金に対して、上告人は所得税を賦課せられる結果となる。

(7) 次に本件訴訟において甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六を控除すること、雑損金総仕入の二%以内を控除することは二重の控除ではない。

甲第四号証の七に基く値引率〇・〇一六は、

脇町税務署員実地調査として

昭和二十六年六月四日午前八時三十分より十二時まで

麦スゴキ 六五〇円を六三〇円 値引二〇円

鎌 七五円を 七二円 値引 三円

クワ先 五〇円を 四五円 値引 五円

バケツ 一六五円を一六〇円 値引 五円

計 九四〇円を九〇七円 値引三三円

同時刻までの売上高(金庫在中)

二、〇二〇円

2,020円+33円=2,053円 値引なしの売上高

33円÷2,053円=0.016 値引率

として本件審査中に脇町税務署長が提出したものであつて、当事者間に争がない。

この値引きは不良品や廃品について為したるものではなく、

完全なる商品価値満点のものを、

甲第二十三号証 脇町所在の金物店分布図

の如く上告人附近には狭い田舎町に金物店が五軒あるので、競争のやむなきに到り

完全品を顧客へサービスのため

値切る客には値引きの余儀ない環境に基くものである。

依つて右値引率は生存競争のため

顧客へのサービスを行うことが慣行ずけられており、毎日かくして反覆してこの値引きを行つているものであるから、被上告人がかくして値引きの率を定めたものである。

このサービスによる値引きは、前叙雑損金とは何等抵触するものでもなく、何等重復するものでないのは以上の通りである。

(8) また被上告人(二審控訴人)第二審判決文(事実)の摘示中に

「尤も利益率を基礎として収支計算をしたような場合には、実際斯様な損失があれば控除しなければならないであろう。」

としているのであるから、事実上は

その論旨は第一審の判決を是認しているものである。

(9) 次に前叙雑損金が事実上生ずることを第二審裁判所も認めていることは判決理由に表示せられているが、その証拠がない故に一円たりと認めず、第一審判決を取消し第一審の採用した金川、蔭山の証言を恣に破毀している。

由来このような雑損金が生じたことを、一々挙証することは因難である。

また一年中の日々に発生している雑損を克明に税務署長へ届出でなくてはならない法令もない。

故にこうした雑損金については、損失金の自己負担分を自己の計算によりて検出すれば以つて足りるものである。

(10) 経営規模の整いたる小売商人にして帳簿組織の備はりたるものは、こうした雑損金は帳簿上の操作に於て自己計算のみを以つてして容易に、この争点となつているような雑損金は始末づけられるものであるから、雑損金に対しては事実上所得税又は法人税の対照にはなつていない。

上告人は夫れ等の経営規模整はず、且つは人的要件に欠如して寡婦只一人の孤独なる経営であり、従つて帳簿組織も備はり兼ねる貧弱貧困なる環境であればこそ、仕入総額に商品価値満点の完全員数三十五点の差益率を基準として、これを乗じて荒利益金を出す方式を採つているものである。

この方式では

仕入商品全額に完全品のみより検出した差益率を乗じて、荒利益を出していることに着目すべきであつて、

この荒利益の中には、前叙雑損金とするものが、二〇%含んでいることは

第一審裁判では完全に認められ

第二審裁判においても窺はれているものであるから、

而も被上告人自身も、この計算方式で雑損金が有れば差引くべきである。

と結論ずけているのであるから、

この雑損金を差引くことは

所得税法第九条第一項第四号の規定する「商業を営む者は、その年中の総収入金額から必要な経費を控除した金額を所得とする」とする規律に該当するものである。

それ故雑損金二一、一二八円は控除せらるべきである。

さうしないと、同じ国民であり乍ら帳簿組織の整いたるもののみは帳簿の操作上このような雑損金は無意識に控除されており、上告人の如く帳簿組織の整備不十分なものは実質的に所得税法第九条第一項第四号に定める所得ではない。計算途上の仮空収入金に対して所得税を賦課せられる結果となり、違法且つ不公平なる差別待遇をせられる結果となる。

上告人にして若し夫が戦死せず復員していたならば、女の身にして、これ程、苦しい、おもいもないであろうし、帳簿も今少しく整つていたであろう。

(11) 最後に上告人には、第二審判決に謂うが如く右のような雑損金がなかつたかというにさに非ずして実際に有つたのである。

雑損金の生じた証拠としては

(イ) 金物小売業を営み昭和二十五年之に百二十五万一千九十六円の商品を仕入れて之を小売にしている。

故に普通有り得べき雑損金二%は発生せざるを得ない環境である。

夫れ故仕入値段に小売の掛値をする場合に、これ等の雑損金を生ずることをも予想して、これが損失の保険の意味もこもつたものが小売値段となつている。

(ロ) 上告人は昭和二十五年中に被上告人も認めて争はなかつた、汽車、トラツク等の運賃

金三万七千二百四十円を支払つている。

そして仕入商品の大部分は汽車とトラツクで輸送しているから、是等輸送中に起り得べき前掲破損品の発生は、不可抗力的な上告人の注意の届かない原因によりて免れなかつたものである。

(ハ) 上告人は小売商人であつてささやかな店舗をもつているものであるから、店頭陳列、戸外へ毎日出し入れ、また取扱中に破損を生ずることは普通金物小売店と同様であつて、事実上破損を生じている。

(ニ) バリカン、刃物、大工道具も取扱つている関係上使つてみて具合が悪かつたなら戻される損失の自己負担も事実上生じている。

(ホ) 其他の雑損金の発生具合は前叙準備書面第九章、及第十五章記載の如くである。

(ヘ) 金額二一、一二八円としたのは、上告人自身では計数を挙げ得る素質に乏しかつたので県立脇町中学校卒業後高松高等商業学校を経て応召入隊していた同業者貞光町金川武、及脇町中学校卒業後直ちに父祖の跡を継ぎ金物小売業を営み実務に明るい穴吹町蔭山勇の両人に頼み上告人の店舗において仕切書、仕入元帳、運賃帳、現物、等を調査のうえ、その数字を挙げて貰つたものである。

(12) 第二審裁判では

(イ) 被上告人は

“尤も利益率を基礎として収支計算を基礎としたような場合には実際斯様な損失があれば控除しなければならないであろう”と、判決事実には摘示せられ、

(ハ) 第一審では、実に斯様な事実があつたとして、この雑損金は控除する判決を下し

(ニ) 第二審判決理由には

“被控訟人援用の前示証人金川武、蔭山勇の証言によれば金物小売商において、商品仕入れの際又は陳列中に破損したり或は売却に量り込み等の所謂雑損金と称するものが二%位生ずるを普通とするのを窺はれないではないが、”

として、この雑損金の二%位生ずるのが普通であることを肯定している。

只第二審では、被控訴人の方にかかる雑損金の具体的に生じていたことを窺はれるものがない。

として、夫れに井上証言を引用して一審判断を破毀しているが、その具体的証拠としては、金川武、蔭山勇の証言で十分であろう。

元来小売営業者は、物品を仕入れて販売し茲に利益を得て家族生活の資を償うことを以つて生業とするものであるから、こうした雑損金の自己負担といつても、家事費をもつても自己負担とすべきではなく、営利目的の範囲内で自己負担とすべきであり、そのために、既にして小売掛値にその負担分は一種の保険料的意味をも含めて値段(売価)を定めてあるものである。

故にこれが雑損金を生じたりとする克明なる一品毎の証拠はなくとも、帳簿組織の完備している商人は帳簿の操作により自然的に雑損金の控除を為されているものであるが、帳簿組織不完全なりし上告人の如きは、仕入原価に差益率を乗じて総収入金を見出す計算方式に於ては、普通一般金物小売業者に生ずる雑損金二%位ありと確定せられる限りは、その範囲内で、これを控除するに不相当とする理由は有り得ない。

そうして上告人が具体的に是以上証拠を挙げることは困難である。

具体的に証拠を挙げることが出来ないとして、その具体性の細やかさが無いからといつて保険の意味も含めて掛値してある完全品の差益率を、そのまま仕入高に乗じて、収入としたのでは、保険の意味を含めた掛値による、保険該当の雑損金が、所得なりとの想定のもとに、所得税を課せられることとなる。

これでは所得税法第九条第一項第四号に規定する「事業所得」ではない。

民事訴訟法第二百五十七条裁判所ニ於テ当事者カ自白シタル事実及顕著ナル事実ハ之ヲ証スルコトヲ要セス

と規定せられているが、

前叙

(イ) 被上告人の自白したる事実

(ロ) 第一審の判決は顕著なる事実

第二審の雑損金二%位生ずるのが普通とするものを窺はれる

等の事実は、右法条に該当するとの解釈がつかないであろうか。

(13) かくして、この雑損金二一、一二八円は本件第一審判決では必要な経費と認めるを相当とするとして判断せられ、被上告人も結論においては、このような雑損金があれば必要経費であると第二審で自白し、

第二審の判断も本件訴訟における金川武、蔭山勇の証言により金物小売商には、このような雑損金二%を生ずると認定しているのである。

故にこのような差益率を仕入総額に乗じて収入金を見出す計算方式のもとには、その雑損率二%までは、明細なる個別的品目を挙げて損失分を露はさなくとも、二%の範囲内たる二一、一二八円は一審判決通り必要経費と認めるのが相当であるのに、之を採用せずとしたところに理由の齟齬がある。

以上

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